ここでは、サイトの初めにも紹介した本、「親から始まるひきこもり回復 心理学が導く奇跡を起こす5つのプロセス [ 桝田智彦 著]」 から一部を引用させていただき、私が経験し見てきた内容と合わせて、完全脱出までを5つのプロセスに分けてご紹介します。
もう一度確認しますが、ゴールは「学校に戻る」「仕事につく」ことではなく、「自分は自分で良い」と心から思い、「誰のものでもない、自分の人生を生きる」こと。それが目指すゴールです。そしてぶり返すことなく、安心・安全な環境において安らぎを得て完全に回復することです。
その途中では、一生懸命に取り組んでも進展が見られない時もあります。進展どころか後退さえして、親がこんなに頑張っているのに…とやるせない気持ちになったり、自分を変えていくことが辛くなったり、自分がやっていることに本当に意味があるんだろうか?と思えてきます。私も何度もありました。そうなると、自分のやっていることに自信がなくなってきて、せっかく進んできたプロセスを自分が逆戻りさせてしまう…。こんなことを何度やってしまったことか…。
そんな時は私のように失敗を繰り返さないために、まずはこのプロセスを思い出してみてください。今はどの段階にいるのか、どんなことを目指しているのかを今一度確認してみてくださいね。また、できることならば同じような立場にある方と繋がって、困ったことや上手く行った時の事例などを参考にされるとより視野が広がります。
表面的にはひどい状態であっても、一歩引いて状況をよく見てみると、一つ一つの行動や言葉には意味があって、悩みながらもプロセスに従ってゴールに向かっていることが実感できますよ。
では、「脱出までの5つのプロセス」を書いていきますね。
脱出までの5つのプロセス
1 希望
絶望状態からわが子の心に「希望の灯」がともるように、親が一貫性をもって支える時期。家庭内に安心・安全の環境を作り、風土として根付かせる。
2 意志
恨みつらみ、無理難題、迷い不安など、ネガティブを基本とした陰陽混合する感情を親がしっかり聴きとる。無条件肯定で受容することで、わが子が「自分自身に価値がある」と思えるように支える。親にも子どもにも試練の時期。
3 目的
心に湧き上がってくる「これをやってみたい!」という欲求に基づき、少しづつチャレンジ・行動が始まる。無条件でわが子の拡大していく行動に投資する時期。
4 有能性
社会参加をする。その中で自分に合った有能感と劣等性のバランスに直面し、葛藤する時期。弱音や展望を遠慮なく言えるように、親が一貫した態度で支え、自己効力感を育む時期。
5 アイデンティティ
「自分が自分で良い」「社会や他者からもそんな自分で良いと思われているであろう確信」、すなわちアイデンティティの獲得に取り組んで行く時期。親はそれを自然に支え、祝福していく時。
以上が、「完全脱出までの5つのプロセス」です。
難しそうな言葉が並んでいますが、これは人が赤ちゃんとして生まれてから、乳児期、幼児期、学童期、思春期を超えてアイデンティティを獲得するまでの、発達心理学で指し示された有名なモデルだそうです。だから、ほぼ全員の大人がたどってきた道筋であるわけです。そして不登校・引きこもりから脱出するには、「もう一度このプロセスをたどって、不十分な部分を解消していく」というように考えるとわかりやすいと思います。
私はこれを理解してからは、「なるほど、自分の子育てにはここが足りなかったんだな。」と思え、「当時はこんな気持ちで接していたなあ…」といろんなことが思い当たりました。一生懸命ではあったけれど、確かに私は一生懸命すぎたし、周りの目を気にしていつも不安な気持ちで子どもに接していました。そんな昔のことを振り返りながら、「そうか、その時自分が与えられなかったのなら、そのプロセスを今からもう一度やり直して補充していけばいいんだな。」と思えました。
「退行」の意味
「退行」とは、人間の成長の過程ですでに通ったはずのレベルに戻ることを言います。例えば、弟や妹が生まれると、再びおねしょや母親の後追いが始まるなど。これは少し考えれば、親の目が小さい弟妹に行ってしまったことによるストレスで起きていると分かるのですが、親にとってはあまり歓迎されることではありません。
この「退行」にはどんな意味があるのか? 前述したように、「不登校・引きこもりからの脱出は、もう一度成長のプロセスをたどって、不十分な部分を解消していくことによって可能になる」ということであれば、退行は、むしろ子ども側からの「ここが足りなかったから、やり直しをしてほしい」という示唆であるように思います。アイデンティティ理論を唱えたアメリカの心理学者エリクソンは次のように説明しています。
退行とは、もう一度、生まれ変わりたい願望、現実との相互性に向かっての第一歩を学び直したい願望であり、人々の接触、活動、競争などの諸機能を、もう一度発達させ直すことに対する新たな許容を得たいという願望である
「自我同一性 アイデンティティとライフサイクル」
私にとってこの言葉は、とても腑に落ちるものでした。さらにエリクソンの言葉は続きます。
人間は、その発達課題を良質に達成する必要があり、そこに失敗や脆弱性があった場合、いつか必ずその脆弱性や失敗に向き合わなければならない日がくる
この言葉からわかるように、子どもに退行が見られたら、足りないところをもう一度やり直す絶好の機会と捉えることができます。もちろん退行の出始めは戸惑うでしょうし、中には家族を傷つけたり他人に迷惑をかけたりするような行動に出ることもあるので、そこは注意しなくてはなりません。しかしほとんどの場合、もう一度やり直すべきプロセスはここだと教えてくれる大きなチャンスであると考えて良いと思います。
まとめ
5つのプロセス全体を見直し、不十分なところをやり直すことで、子どもは「自分は自分で良い」というアイデンティティを確実に手に入れていくことができます。退行が起きた場合は、そこが今やり直すべきところであるということ。なぜそれが起きているのかを考え、どのプロセスであるかを見極め、安心・安全な環境を作って「やり直し」に取り組んでみてください。
その中で大切なのは、子どもの話をよく聴くことです。
子どもが何歳であっても、子育てをやり直すような気持ちで、子どもの行動や言動の意味を「子どもの立場に立って」考えてみる。この視点がもてるようになってください。
「親が変われば、子が変わる」
私の経験からも、これは間違いありません。
しかも、親が変わろうとすれば、先に親自身がもっていた今までの思い込みや考え方の「ねじれ」のようなものが取れていって、気持ちが楽になっていくのを実感されると思います
「親が変わる」とはいえ、そんなに大変なことと考えなくても大丈夫。常に、子どもはなぜそう言うのか、なぜそのように行動するのかを考えて、子ども目線に立って考えながら聴くようにする。ほぼこの一点です。
全プロセスを通してこれを忘れなければ、脱出への道筋がはっきりと見えてきます。